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我々はなぜ失敗へ向かおうとしてしまうのか?


我々はなぜ失敗へ向かおうとしてしまうのか?

自分を正しいと思う心は、ビジネスにおいて非常に大切です。見るからに自信がなさそうな者と取引をしたがる客はいないでしょう。知識や経験に裏付けられた「正しさ」は、客に信頼感や安心感を提供する上で必要不可欠なものといえます。

ところが、時には正しいはずの思考や行動がトラブルを招いてしまうこともあります。挽回しようとあれこれ手を打っても、かえってミスが大きくなってしまう――それはあたかも自ら失敗へ向かおうとしているかのようです。

こうした自滅をもたらすのは、貴方を閉じ込める小さな「箱」かも知れません。

今回は正しさの罠と「箱」の法則について、『自分の小さな「箱」から脱出する方法』(大和書房)をもとに見ていきましょう。



自分の小さな「箱」から脱出する方法

1. 本書について

『自分の小さな「箱」から脱出する方法』は、アメリカ・ユタ州を拠点とする研究所、アービンジャー・インスティチュートによる書籍です。同研究所は「組織内での人間関係の諸問題を解決することによる収益性の向上」を目的としたマネジメント・コンサルティングをおこなっています。

ビジネス書として全米ベストセラーとなった本書ですが、日本ではラグビー日本代表五郎丸歩選手が紹介したことでも知られるようになりました。

本書の内容を簡単にまとめると、自己認識を「箱」という概念で捉え、それがもたらす自己欺瞞や失敗、自分を囚える「箱」から解放される手段について解説するというものです。ビジネスマンが上司とミーティングをしながら、会社や家庭での人間関係について考えを深めていく筋立てとなっており、わかりやすく頭に入ってくるように組み立てられています。

この本は一見すると人間関係についての理想を説くありがちな自己啓発書のようにも読めるため、Web上には「当たり前のことを長々と書いている」といった感想も見受けられます。

しかし「箱」の厄介さは、まさしくそれが「当たり前のことのように思えてしまう」点にあります。そこで、本書で示されるいくつかの重要な概念について少し丁寧に見ていきましょう。

2. 自己欺瞞はいつ起きるか?

本書で「箱」と関わるキーワードのひとつが「自己欺瞞」です。自己欺瞞とは、「自分が他者に対してすべきと考えたこと」をしない理由を、他者に見出すことです。

目の前に困っている人がいるとしましょう。それは横断歩道の前で立ちすくむ老人かも知れませんし、電車内で立つ妊婦かも知れません。貴方はその相手を助けるべきだと内心で思ってはいます。共に道を渡ってあげたり席を譲ってあげたりと、それ自体は決して難しいことではありません。

ところが、何らかの原因――面倒だとか疲れているだとか――によって相手を助けられないことがあります。そうしたときに自己欺瞞は立ち現れるのです。

人間には、自分を正しいと思いたがる性質があります。そうでなければ自責的・自罰的になり、最悪の場合には精神を病みかねないため、自分を正しいと思う気持ち自体は大切なものです。

ただ問題は、実際には正しくないときにも「自分は正しい」と思ってしまうことです。その場合、自分の正しさを脅かす他者は敵となり、それを攻撃する方向へ意識や思考が向いてしまいます。

先ほどの例でいえば、手を貸さなかった自分を棚に上げ、「足元のおぼつかない老人がひとりでふらふら出歩くなんて不注意な」「こんな混み合った電車に妊婦が乗り込んでこなくてもいいのに」といった相手を責める方向へ意識を向けてしまうわけです。

「目の前の相手を助けるべきだ」という自分の感情を裏切ったとき、それでも自分の正しさを肯定するためにおこなわれるのが自己欺瞞です。単に面倒くさいだけなのに、「相手が間違っている。そんな相手に自分が手を貸す筋合いはない。手伝わない自分は正しい」などと考えてしまうのです。

このように他者を責め、自身を正当化する自己認識こそが「箱」と呼ばれるものの正体です。恐ろしいことに、この「箱」は持ち続けることで自身の一部になってしまいます。

3. 「共謀」が起こるタイミング

自己欺瞞の矛先が見知らぬ他人であればまだいいですが、家族や同僚、上司だったらどうでしょうか。お互いに「本当は相手に手を貸したほうがいい」と思いながら、「だけど相手は手を貸すに値しない人間だ」と責めることで、手を貸さない自分を正当化する。このような状態を本書では、「箱」に入っている者は相手も「箱」に入れてしまうのだ、と言い表しています。

自分が正しく在るためには、相手が誤っていなければなりません。そうでないと、「何ら落ち度のない相手へ手を貸さない自分」が誤っていることを認めなければならないからです。そうするとお互いがお互いを責め合う関係が生じ、不幸の連鎖が生まれます。その様は、あたかもお互いが相手を失敗させようと「共謀」しているかのようです。

本書では「共謀」について、複数名がそれぞれ自身の感情に背き合っている状態と説明します。

共謀は人が「箱」の中から他者に関わろうとするタイミングで起きるものです。したがって、「箱」の外にいる人間は共謀に加担することなしに他者との関わりを持つことができます。

ビジネスを組織的におこなう理由の大きなひとつに、役割分担による商機や商業圏の拡大が挙げられます。これは組織の人員がお互いに協力し合うことを前提とした取り組みであるため、各々が「箱」の中にいて上司や同僚や部下の失敗を招くなら、そこに大きな非効率性が生じます。

誠実に仕事をおこないたければ「箱」の外へ出て、他者を手伝うべきだという自分の感情と向き合うことが必要です。

4. 自身の都合とマネジメント

では、他者に手を貸すべきだという要請に全て応えていれば、「箱」の外へ出られたことになるのでしょうか。

言うまでもなく、これは誤りです。組織の中で動けば、手助けを求められる様々な場面に遭遇することでしょう。それらの全てを「相手のために」として動けば、数ヶ月も経たずに立ち行かなくなることは目に見えています。手助けばかりをして肝心の自分の仕事は手つかずだとなると、目も当てられません。

このような問題に対して、本書は自動車の運転を例に挙げて答えます。ドライブの際に気を配るべきは、自分の前後左右を走る車や近くの歩行者であり、道をゆく全ての車や人間ではありません。それと同じように、「箱」から出た状態で手を貸すべき相手はさしあたり自分にとって身近な他者であり、会社内の全ての人間ではないのです。

重要なのは、他人を物ではなく意思と自尊心を有するひとりの人間と認識することです。その上で、自身の都合と相手のニーズを考え、バランスよく対応することが良質の自己マネジメントにつながります。

本書では、「箱」の中にいるときにしても無駄なこととして、6つの事柄を挙げています。それぞれ「相手を変えようとすること」「相手と全力で張り合うこと」「その状況から離れること」「コミュニケーションを取ろうとすること」「新しいテクニックを使おうとすること」「自分の行動を変えようとすること」、です。

つまり、口先だけの振る舞いやコミュニケーションのテクニックに頼っても無駄であり、相手の尊重が求められるということです。また、その際には自分が間違っているかも知れないという意識も持っておく必要があります。

5. 成果への集中

少し視点を変え、「箱」の中にいることがいかに組織にとってマイナスの影響を及ぼすのかを確認しておきましょう。

「箱」の中にいると、人は自分の成果や評判ばかりに意識が向きます。「自分が正しいこと」が重んじられるため、本当の成果へ集中できなくなるのです。

これは、たとえば契約の受注件数で給与査定が決まる場合において、到底採算が取れないような契約を取ってきて会社に損失を与えるケースを考えてみるとわかります。営業マンとしてはとにかく契約を取ってきたことだけが成果となり、開発や製造部門に加わる負担や、それに伴って生じる残業代などのコストは慮外のこととなるわけです。

営業と開発、製造がそれぞれ不仲な会社は珍しくありませんが、お互いに足を引っ張り合っていては業績向上など見込めるはずもありません。営業マンにしても本当に目指すべき成果が何なのかをしっかり考え、それが適切に評価されるような体制も社内に整ってさえいたのなら、採算を度外視した契約など無理に結ぼうとはしないでしょう。

自分個人の成果や評判だけに囚われることがなくなれば、部門間の情報伝達や先輩から後輩へのノウハウの伝授などもスムーズにおこなわれます。その結果、会社全体の利益につながるはずです。

目先の損得や私的な利益を追い求めがちなのは、その当人が「箱」の中にいるからです。「箱」から出ることで、他者を人間として見ることができ、その成果も適切に評価できるようになります。

また、他者の在り方を自身の欠点の正当化に利用することがなくなるため、自分の欠点も虚心坦懐に見つめ、改めようとできるのです。

6. 誰が為の利益か

本書では、シンプルなひとつの問いかけが出てきます。それは、「我々が会社で努力するのは何のためか」というものです。

答えもまたシンプルであり、「会社の業績を上げるため」です。会社としての業績が上がることで、社会全体にもたらされる富も多くなり、そこで働く従業員に還元される利益も大きくなる。これが本来の在るべき姿でしょう。

組織の個々人が「箱」に入り、他者に非を見出そうとすることは、業績向上とは正反対の結果を招きます。「自分の説明をきちんと聞いていなかった新人の子に、2度も3度も教えてやるつもりはない」と顔をしかめる教育係は、会社のために新人の能力を鍛えたいのか、自分のプライドを優先させて教育の手間を惜しんでいるだけなのか、どちらでしょうか。

自分は一生懸命働いているつもりなのに、全体としては負債となっているということが実際に起こり得ます。そうなると会社も自分自身も不幸になってしまうでしょう。

会社という組織が意味を持つのは、所属している人びとがお互いに力を合わせるからです。能力や能率の高くない従業員に対しておこなうべきは教育なり配転なりであって、怒鳴りつけることや無視することではありません。

追求すべき利益が誰のためのものなのかを見失ったとき、人は「箱」の中にいます。自分は正しいのに周囲が足を引っ張るのだと常々考えている方は、一度立ち止まってみてもいいかも知れません。

むすび

本書で示される考え方は、会社組織だけではなく家庭やサークルなど様々な集団での人間関係に応用することが可能です。「他者が間違っている」ではなく、「自分は誤っていないか」と考えてみることが大切といえます。なぜなら、他の誰か――たとえば貴方の上司が誤っていたとしても、だからといって貴方が正しいとは限らないからです。

他人を変えようとするのは非常に困難ですが、自分の見方や捉え方を変えることは可能です。ただ、それも簡単そうに見えて実は難しいものでしょう。

自分を閉じ込める見えない小さな「箱」から出て、しかも外に居続けるには、不断の意識が求められます。しかし、それに成功したあかつきには正しさの罠や他責から解き放たれ、人間関係の本来有する爽やかさを感じることができるのではないでしょうか。

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